森田療法と芸術の秋 ―「チャーチル会名古屋秋季展」、本日より―

2019/10/22

 

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 チャーチル会という絵画を愛好する人たちの会がある。この会は、70年ほど前に生まれ、政治家でありアマチュア画家として知られたウィンストン・チャーチル卿に、その名前を冠することを認められたという歴史と由緒のあるアマチュア画家の会である。アマチュアとは素人を意味しない。仕事(ジョブ)あるいは職業(プロフェッション)としてでなく、何かを深く愛好する人たちのことである。
 チャーチル会名古屋の秋季展が、本日10月22日から27日まで、名古屋市内で開催される。会の代表者は杉本二郎様である。杉本様は、吉川英治の『新平家物語』の挿し絵を描かれたことなどで知られる杉本健吉画伯の甥御様である。芸術家のご一族出身のサラブレッドで、素人目にもいい絵をお描きになる。絵は愛好家だが、かつての本職は映画人で、東映の本社に定年まで勤務しておられたそうである。
 私は4年ほど前に、森田療法の分野でお知り合いになる機会に恵まれた。江渕弘明という医師で禅に生きた森田療法家が、活動された実績をたどっていたら、その足跡は京都から名古屋へと向かっていたことが判明した。それでそれまでまったく知らなかった名古屋における森田療法の活動の流れに接することになった。それがご縁であった。一昔前に、名古屋啓心会や初期の(新)生活の発見会名古屋集談会で、指導的立場で活動しておられた人が杉本二郎様であった。森田療法のことに深く精通しておられるし、なんとも誠実で親切なお方である。先だって浜松での日本森田療法学会で、仏教と森田療法について発表する重責を与えられたが、準備段階で杉本様の胸をお借りし、多くを教えて頂いた。私はこの方との出会いを有り難く思い、一目も二目も置いている。

 

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 森田療法における自力と他力の問題を、倉田百三の生涯を中心にして考えようと、ブログに文章を途中まで書いたが、続きを掲載するのが遅れている。学会では倉田のことにも触れたが、盛り沢山の内容を取り上げた中で、とても倉田のことに深入りはできなかった。というより、森田療法と倉田の問題は、宗教や芸術が絡んでいることもあって、複雑である。それに倉田は本当に森田療法を受けたと言えるのであろうか。病身のためもあったかもしれないが、入院はせず、主に日曜日に特別に森田の診察を何度か受けた、つまり例外的な扱いに浴していたようである。もちろん倉田は、森田の指導を熱心に受け止め、興が湧かなくてもとにかく執筆せよという森田の助言に従って、小説『冬鶯』を書いた。その結果、倉田は自分として大変気に入った作品を書けたと言っている。しかしこの作品は、読んでみると、主人公は神経質を絵に描いたような暗い男である。絵に描いたと言うより、文字通りそのまま文章に書いたものである。世評はどうだったのだろう。評価は読む人によるだろうが、私(たち)からすれば、神経質者はかく治癒すべしという当為の小説のようで、息苦しい。
 この1ヶ月後に、入院中の鈴木知準は、倉田が森田に対して「催されて生きる」という道元の言葉を語っている声に耳を傾けたのであった。倉田は、道元の他力の思想にいつ、どのように関心を持つようになったのだろう。『冬鶯』とどう繋がるのだろう。倉田から道元を説かれて、森田はどう反応したのだろう。不可解なことが多い。
 結局倉田は「治らずして治る」という、名言(迷言ではない)を残すことになる。到達点の正直な表現であろう。倉田はやはり特別な患者であったから、後日森田は症例倉田について、詳細に書いたり論じたりしている。しかし、日記を用いて治療したと言うが、治療のプロセスをほとんど書いていない。「治らずに治る」という言葉の綾を批判するばかりのようで、残念ながら森田から伝わってくるものは薄い。森田療法にとって、倉田が来てくれたことは大きなエピソードだったが、倉田本人にすれば、生涯の一コマに過ぎなかった。遍歴をするのが倉田の業だったとも言えるかもしれないが。ともかくも、人生の後半は、自力と他力の間をぶれながら、倉田は無理な道を登り、かつ堕ちていくのである。難しい事例なので、まとめ難くて私は格闘していた。
 これは裏原稿だが、ブログの表原稿は近日まとめ終えたい。
 作家ではないが、画家でいらっしゃる杉本様ならどうおっしゃるだろう。チャーチル会名古屋秋季展に行って、杉本様にお会いしたいと思っている。

 

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付記1
 ブログ連載の間に、この記事を挟みましたが、遅れている連載稿の続きは近日掲載します。

 
付記2
 10月5日に日本森田療法学会のシンポジウムで発表した「仏教、禅の叡智と森田療法―『生老病死』の苦から『煩悩即菩提』へ―」のスライド一覧と説明を「研究ノート」欄に出しました。